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ありそうでなかったホラー映画、『ライト/オフ』に描かれるもの

これを読んでいるほとんどの人が、子供の頃に暗闇を恐ろしく感じたことがあるでしょう。電気を消した部屋の中に、明かりが届かない影の中に、何か奇妙な存在がうごめいている。一度そう考えてしまうと、恐怖感は拭い去ることができません。

映画『ライト/オフ』は、こうした暗闇に潜む恐怖を描いた作品です。今作はありがちな設定でありながら、見る人を飽きさせない魅力があります。

この記事では、そんな『ライト/オフ』について語って行こうと思います。

映画『ライト/オフ』の作品概要

映画『ライト/オフ』は、2016年公開のホラー映画です。監督は『死霊館』のジェームズ・ワン。原作は、約3分間の短編映画作品である『Lights Out』です。

照明のスイッチを切った瞬間、、、

今作で描かれるのは、闇の中に潜む恐ろしい化け物と、それに対峙する姉弟たち。ホラー映画にありがちな構成ではありますが、心拍数が上がるような緊迫感のある映像と、上手にドッキリさせてくれる驚かし方で、恐怖感を楽しむことができます。 「明かり」の存在が重要な今作。見終わった後、明かりを手放すことができるでしょうか。

あらすじ

マネキンが立ち並ぶ、夜中の工場。ここで、悲惨な事件が起こりました。電気を消すと現れ、電気を点けると消える謎の人影によって、1人の男性(ポール)が殺されたのです。

レベッカは、家族と離れて1人暮らす女性です。ブレットとは恋人のような関係を築いていましたが、家に彼の私物を置いたり、泊めたりすることはありませんでした。そんなレベッカの元に、児童福祉局から連絡が入ります。

その内容は、父親の違う弟・マーティンが授業中居眠りを繰り返し、母親に連絡が付かない、というものでした。

学校に向かいマーティンと会ったレベッカは、母親・ソフィーの精神的な病気が悪化していることを知ります。独り言を繰り返し、ダイアナという見えない存在と付き合っていると言うのです。

レベッカはソフィーに薬を飲むように言います。しかし、ソフィーは首を縦に振りません。しびれを切らしたレベッカは、マーティンを自宅へと連れて帰ることにしました。

その夜のこと。レベッカは自宅で、不気味な人影に襲われてしまいます。その人影は、明るい場所にレベッカが逃げると消えてしまいました。次の日、人影がいた床を見てみると、「ダイアナ」という名前が彫り込まれていたのです。

映画『ライト/オフ』(2016)予告編

明確かつ、簡単な対処法がありながら、圧倒的な力を持つ恐怖の存在を描く

ホラー映画に登場する恐ろしい存在たち。それらの多くは、ただの人間にはどうしようもない力を持っています。動きは遅くとも、集団で襲い掛かってくるゾンビたち。巨大でなすすべもない怪物に、超常的な力を持つ悪霊たち。

しかし、微力な人間も彼らに対抗しなくてはなりません。そのため、こうした存在たちには「突くべき弱点」があります。それが火であり、首を切り落とすことであり、霊水なのです。

「弱点がある」という点において、今作『ライト/オフ』は例外ではありません。むしろ、弱点を突く方法は他の作品よりも分かりやすく、より簡単ですらあります。

恐怖の存在に対する対応策の分かりやすさ。これこそが今作の特徴だと言えるでしょう。

今作に登場する怪異・ダイアナは、元々は、光に過敏な体質を持つ人間です。それは体を失った現在でも変わりません。闇の中でしか力を発揮できず、光にさらされると逃げるほかなくなります。ブラックライト以外の光源は、彼女の肌を焼いてしまうからです。

ダイアナは光に照らされると、その姿を現しておくことができません。つまり、自身の周囲を常に明るい状態に保っておくことが、ダイアナへの一番の対応策なのです。

蛍光灯に懐中電灯、街頭に携帯電話の明かり。現代の生活は光に包まれています。蝋燭や松明の明かりも、ダイアナにとっては天敵です。ある程度都会に住んでいる人であれば、街中に逃げることで、ダイアナからの攻撃を退けることができるでしょう。

しかし、今作ではダイアナに対し、「対処できる恐怖」以上の存在感を与えています。

ダイアナは、自身を害する光に対し干渉することができます。蛍光灯をチカチカとさせたり、蝋燭の火を消したりすることができるのです。そのため彼女に対峙する人間は、いくつかの対処法を持っておくことが必要になります。もし懐中電灯だけで彼女に挑んだら、すぐさま屠られてしまうでしょう(作中の警察官が良い例です)。

つまり、ダイアナは対処しやすい性質を持ちながら、それを上回る力を持つ恐怖の存在なのです。これは、数多くあるホラー映画の中で、「ありそうでなかった」展開だと言えるでしょう。弱点は分かりにくく、かつ、突きにくいものであるのが定石だからです。

光は相手を倒すことができるものの、相手は光を消すことができる。自分ができるのは、消えるかもしれない光を使って反撃を起こすこと。闇がある以上、安全な場所はありません。

人間にとって、光とは身近で欠かせないもの。それと同時に、光の裏にある闇も身近なものです。そして、人間は闇を本能的に恐れます。 闇の中にいる何か。今作を見ると、そういった存在をみいだしてしまうかもしれません。

登場人物の設定に意外さを見る

実は今作にはもう一つ、他のホラー作品とは一線を画す部分があります。それが、登場人物の設定に関する特殊さです。

その代表的なものが、レベッカの弟であるマーティンと、同じくレベッカの恋人(未満)であるブレットの人物像です。それぞれ見ていきましょう。

マーティンは、母親を取り巻く怪異の存在に気が付きながらも、否応なしに巻き込まれてしまう人物です。怪異と真っ向から対峙する主人公ではなく、あくまでも「守られるべき」存在なのです。

他の作品であれば、「守られるべき」存在は、受け身の姿勢で描かれることが多いもの。しかし、マーティンはそうではありません。

マーティンは積極的にレベッカを助け、怪異であるダイアナと闘います。恐怖に体を震わせながらも、それから逃げることは無いのです。

怯えて、逃げるだけの登場人物が多いホラー映画の中で、マーティンは特殊な例と言えるでしょう。

レベッカの恋人(未満)であるブレットもまた、マーティンと同じ人間性を持った人物です。脅威に立ち向かう勇気を持ち、勝てないと見込んだら、逃げるのではなく助けを呼ぶことができるからです。

ホラー映画の定番として、「一人きりで立ち向かう主人公」というものがあります。味方が倒れ、誰も助けてくれない状況で頑張るしかない……

今作は、「一人で立ち向かう主人公」が登場するようなストーリー進行でありながら、一風変わった魅力的な登場人物たちの活躍を楽しむことができるでしょう。

ダイアナについての謎を考察

今作の脅威・ダイアナは、謎の多い存在です。彼女が一体どんな人物なのか、といった部分は描写が少ないものの、断片的に描かれるシーンから考えることが可能です。

この項では、そんなダイアナの謎について、あくまでも私的な考察をしていきます。

ダイアナが精神病院にいたのはなぜ?

レベッカがダイアナについて調べて行く途中、ソフィーとダイアナがかつて同じ精神病院に入院していたことに気が付くシーンがあります。その上、ソフィーとダイアナは親しい友人同士でした。

なぜ、ダイアナは精神病院にいたのでしょうか。彼女が抱えていたのは皮膚疾患であり、精神的な病気だとは明示されていません。

ダイアナが精神病院にいた理由を考えていくと、彼女の性格と特殊能力に思い至ります。

かつて、ダイアナに関わった人物が、このような言葉を残していました。

「彼女が頭に入ってくる!」

ダイアナはその実体が見えなくなって以来、ソフィーの精神に潜んでいました。しかし、幽霊ではありません。後述しますが、「実体が見えなくなっただけ」であり、死んではいないからです。

ダイアナは、人の精神に入り込むことができる特殊な能力を持っていました。また、人を傷つけることに抵抗感の無い性格でした。「人の精神に入り込む」という病気を治せる科はありませんし、性格や人格に関するものは精神科が得意としています。

皮膚疾患よりも特殊な事象を重視した結果が、ダイアナの精神科入院に繋がったのではないでしょうか?

UVライトでダイアナが見えた理由

ホラー映画を科学的に考察することは、なかなか難しいものです。ともすれば、その面白さを半減させる要因になりかねません。しかし、通常の光では影しか見えないダイアナが、UVライトの下でははっきりと見える、という事象には興味をそそられます。

UV(紫外線)について調べてみると、面白いことが分かります。UVライトで照らすことで、普段肉眼では見ることができないものを見ることができるのです。それは、例えば微細な埃であったり、油汚れやカビであったりします。

ダイアナが、そのどれかにあてはまるとは考えにくいでしょう。しかし、彼女は死んだわけではありません。確実に存在はするものの、光の下に出られないだけだからです。

ダイアナは光に照らされた部分にいることはできません。それは、光が肌を焼くためであり、光に対する恐怖があるためです。事実、太陽が輝く昼間であっても、陰になる部分があれば、彼女はそこに潜むことができています。これが、幽霊とは大きく異なる部分でしょう。

存在してはいるが、目に見えないもの。

ダイアナがUVライトで照らすことによって見えるようになった理由は、ここにありそうです。

まとめ

対処法は分かりやすいものの、恐ろしさは侮れない怪異を描いた映画『ライト/オフ』について解説してきました。

今作は上映時間が約1時間半と短いものながら、「ホラー作品を見た」という充足感を得られるものとなっています。電気や影といった題材が身近であるだけに、幼いころにおびえた闇の記憶を思い出してしまうのです。

今作の原作となった短編映画『Light Out』もまた、不気味な後味を残す作品です。この2つの作品を観賞して、その「ありそうでない」世界観を味わってみてください。


最後に、皆さんは『The Backrooms』という都市伝説をご存知でしょうか?

四角い天井灯と、単調な黄色の壁紙。そして誰もいない部屋、というだけのものなのですが、その『』と『暗い灯り』を活かして、Backroomsという世界の恐怖の基礎は作られ、、、 『Light Out』 と似たような感じの恐怖の原理です。

興味がございましたら、是非ご覧になってください