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建設用3Dプリンターの導入状況! in 日本

建設用3Dプリンターとは、3Dプリンターの技術を建設に応用するもので、CADなどの3Dデータをもとに立体物を造形する技術です。

3Dプリンターはもともと、フィラメントを熱で溶かして積層する熱溶解積層方式や、レジンという液体樹脂に光を照射し、硬化させて積層する光造形方式などにより、小ロット、フィギュア、試作品などを製造するために用いられていました。

建設業界でも、3Dプリンターにより建築模型を作ることは早い段階から行われていました。

最近では、こうした小型の製品だけではなく、モルタルなどを利用して建築物そのものを造形できるようになっています。

発展現況

3Dプリンターの建築への応用は、2000年代に欧米で始まりました。

当初は、3Dプリンターでベンチを造形すると言ったような簡単な造形物の制作に利用されていました。

2010年代の後半になると、建設用3Dプリンターの開発が進み、本格的な建築物の造形に利用されるようになります。

中国のWinSun社やフランスのXtreeE社、アメリカのICON社などが、技術を発展させました。

特に、ICON社は、2018年に初めて、3Dプリンターによりアメリカの建築基準をクリアした住宅を建築することに成功しました。

日本での導入状況

世界各国で建設用3Dプリンターの開発と利用が進む中、日本でも、導入が広がりつつあります。

建設用3Dプリンターには、

  1. これまでにない特殊な形状やテクスチャーが可能になる。
  2. スピード施工による省人化や工期短縮が可能になる。
  3. コンクリート打設後の型枠を廃棄する必要がなくなる。

といった特徴があります。

ただ、地震国の日本では建築基準法37条が定める基準をクリアした建築材料を使うことが求められています。

建設用3Dプリンターでは主に、特殊なモルタルが用いられていますが、モルタルだけでは構造部材として使うことができないため、一般的には次のような形で利用されています。

  • ・建設用3Dプリンターでモルタルを用いて非構造部材の壁などを造形する。
  • ・建設用3Dプリンターでモルタルを用いて型枠を造形し、型枠内部に鉄筋を配してコンクリートを充填する。

こうした形であれば、モルタルを非構造部材として用いているため、建築基準法上の問題はありません。

一方、建設用3Dプリンターでモルタルを用いて型枠を造形するだけでなく、型枠そのものを構造部材として利用する場合は、建築基準法20条の規定に基づく国土交通大臣の認定を受ける必要があります。

最近では、建設用3Dプリンターで使うモルタルに粗骨材などを混ぜることでコンクリートとして認定を受けると言った形で、法規制をクリアする試みも行われています。(清水建設の「ラクツム」等)

2023年3月には、大林組が建設用3Dプリンターによる無筋建築「3dpod」を完成させたことが話題になりました。鉄筋無しでも超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」によって耐震性を確保しており、屋上に人が上がることもできるとのことです。

現時点では、建設用3Dプリンターは、部分的な利用や実証的な建築にとどまっていますが、今後は、確実に利用が広がっていくと考えられています。

扱っている企業

世界各国にはすでに40社近くの建設用3Dプリンターメーカーが存在しています。一方、日本では、2022年が建設用3Dプリンター元年と言われており、今後、導入が進んでいくと見られています。ここでは主なメーカーの例を紹介します。

1、株式会社Polyuse(ポリウス)

2019年に設立されました。日本で初めて建設用3Dプリンターを開発したスタートアップ企業です。現時点でも、国内で唯一の建設用3Dプリンターメーカーで、「人とテクノロジーの共存施工」を掲げ、持続可能なインフラ体制を目指しています。

2、セレンディクス株式会社

建設用3Dプリンターによる住宅の事業化に取り組む企業です。10平方メートルのSphereをすでに販売しており、今後、49平方メートルのFujitsuboといった住宅の販売を行う予定とのことです。

3、會澤高圧コンクリート株式会社

アームロボット式のコンクリート3Dプリンタ(c3dp)を用いて、デザイン性の高い建築物などを造形しています。

4、大成建設

東レエンジニアリングDソリューションズと共同で、建設用3Dプリンターで斜面や曲面、凹凸面などの任意の形状にコンクリート構造物を構築する技術を開発しました。トンネル工事などで応用を想定しています。

5、清水建設

建設用3Dプリンター向けコンクリート「構造用ラクツム(LACTM)」を開発しました。建築基準法20条の規定に基づく国土交通大臣の認定を受けているため、通常の確認申請手続きのみでプリント構造体による建築物を完成できます。

また、建設用3Dプリンター「Shimz Robo-Printer」も開発しています。

6、大林組

特殊なモルタルと独自の超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」による3Dプリンター建築技術を有しています。

7、株式会社 Lib Work

建設用3Dプリンターを駆使して住宅を建設し、成功を発表しました。この3Dプリンターハウスは、土を主要な建築材料として使用しており、環境への配慮からくる優れた特徴を持っています。

活用事例

日本国内では、公共事業での部分的な利用や実証的な建築物にとどまっています。

公共工事の例

  • 2022年4月 株式会社Polyuseが、国土交通省発注の一般国道55号南国安芸道路の改良工事において、建設用3Dプリンターで造形した土木構造物の施工を行いました。
  • 2022年6月 日揮グローバル株式会社が宮城県石巻市のバイオマス専焼発電設備の建設現場に、デンマークCOBODのガントリー型コンクリート系建設用3Dプリンターを設置し、プラントの配管支持構造物を造形しました。
  • 2022年9月 株式会社Polyuseが、国土交通省近畿地方整備局発注の国道24号河原町十条交差点電線共同溝工事において、建設用3Dプリンターを現場に持ち込んだうえ(オンサイトプリンティング)で、歩車道境界ブロック(縁石部材)を直接造形する工事を施工しました。
  • 2022年9月 株式会社Polyuseが、国土交通省中部地方整備局発注の令和3年度 名四国道豊田地区道路建設工事において、バイパス工事の基礎となる重力式擁壁を建設用3Dプリンターを用いて造形施工しました。

住宅・民間工事の例

  • 2021年02年 清水建設が(仮称)豊洲六丁目4-2・3街区プロジェクトにおいて、ラクツム(LACTM)で造形した3Dプリンティング型枠を初めて適用しました。
  • 2022年2月 株式会社Polyuseと株式会社MAT一級建築士事務所により、建築確認申請を取得した上での建設用3Dプリンターによる建築物を施工。建築確認を得たのは初の事例です。工場で製造した3Dプリンター部材を群馬県渋川市の建築現場に運び、現場で組み立てて施工する形を取りました。面積は17平方メートルの平家建てで、倉庫として利用されるとのことです。
  • 2022年3月 セレンディクス株式会社が、愛知県小牧市の百年住宅(小牧工場)にて、10平方メートルのSphereを建設用3Dプリンターで建築。24時間以内に住宅を造るという目標を達成しました。(※10平方メートル以下の建築物は建築確認が不要です)
  • 2022年7月 會澤高圧コンクリート株式会社が、北海道新冠町の太陽の森ディマシオ美術館の一角に建設用3Dプリンターで造形した宿泊施設を建築しました。
  • 2023年3月 大林組がセメント系材料を用いた3Dプリンター実証棟「3dpod」を完成させました。原料として超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」を用いています。常温硬化型のモルタル材料で構造体として使える強度があります。
  • 2023年4月 株式会社レ・コネクションがフランスのXtreeE社、PrimalDesign.Labo合同会社(東京都品川区)と技術提携し、沖縄県本島北部(今帰仁村)を中心に建造物用3Dプリンターを用いて、100~150平米のプライベートヴィラの建築を開始しました。2025年までに10棟を建築する予定とのことです。
  • 2023年6月 清水建設が、東京都江東区の「潮見イノベーションセンター(仮称)」にある駐車場の屋根構造物をラクツム(LACTM)で造形しました。
  • 2023年7月 セレンディクス株式会社が、愛知県小牧市の百年住宅(小牧工場)にて、2人世帯向け3Dプリンター住宅 「serendix50(フジツボモデル)」を建築しました。延床面積は50平方メートルで最大高さは4メートル。施工開始からわずか44時間30分で完成しました。販売予定価格は550万円としています。
  • 2023年11月 株式会社Polyuseと高知県の和(かのう)建設株式会社が建設用3Dプリンターで造形した常設のサウナ施設「サウナメランジュ」を開設しました。
  • 2024年度 株式会社 Lib Workが、熊本県山鹿市鹿央町梅木谷245にて、3Dプリンターモデルハウス「Lib Earth House “modelA”」未来の家をつくりました。

まとめ

日本では、スタートアップ企業や大手ゼネコンが試験的に建設用3Dプリンターを導入しています。

建築基準法が厳しいために建設用3Dプリンターの導入が遅れていますが、建設業界で深刻化する人手不足解消やカーボンニュートラルに向けた有力な手段になると期待されているので、今後は、法整備と共に導入が進むものと見られています。

次は海外の状況を見てみましょう!(建設用3Dプリンターの導入状況! in 世界各国